午後二時の告白のつづき
すっかり木葉の策略にハマってしまって、元々ほとんど頭に入ってきてなかった授業の内容が、いまや完全に遮断されてしまった。頭の中は木葉のことでいっぱいだ。
背中に書かれた文字は本当に「すき」の二文字であっているかにはじまり、LIKEかLOVEか、どうしてこのタイミングなのか、木葉がいまどういう気持なのか、なんと答えるのがいいのか、そもそも答えは必要としているのか。
まとまらない考えで、思考が荒れていく。
「なあ、放課後ちょっと時間あるか?」
何も手につかないまま授業が終わってしまった。そこに木葉によって追い打ちをかける。
バグバグと暴れる心臓と、授業中にとっ散らかった思考と、気付かされたまだまだ未熟な恋心。
「……あるけど、」
「そんな警戒すんなって。すぐ済ますから」
眉毛を下げて、眦を細めた木葉が乾いた笑いを零す。
そんな表情をさせたかったわけじゃない。胸が握りつぶされたみたいに苦しくて、申し訳無さが込み上げる。
ただいっぱいいっぱいなだけ。これ以上のものを受け入れる余裕がなくて、身構えてしまう。
「木葉、」
それでも、いつも笑顔でわたしに接してくれる木葉に、あんな顔をさせたままでいたくない。いつだって笑っていてほしい。
勇気を振り絞った声は情けなく震えている。
「ん~?」
やわらかく笑ってくれたのはきっと木葉の気遣い。まるい声色に、少しだけ緊張がマシになる気がした。
たとえわたしの勘違いだったとしても、木葉なら、茶化さず、ふざけず、真摯に受け止めてくれるから。大丈夫。
『わたしも、かも……』
木葉が広げたままのノートの片隅に書き込む。勇気が足りなくて直接的な表現ではないけれど、伝わってほしい。
「え、は、?」
小ぶりな瞳がくりくりと見開かれて大きくなる。文字とわたしの顔を交互に見る度に、色素の薄い髪が揺れてきらめく。
好きだって気づいた途端、ひとつひとつの動作にときめいてしまうのが不思議だ。
「そうじゃない?」
あまりに驚くから、じわじわと不安がせり上がってくる。
「あってる。ビビっただけ」
慌ててシャープペンシルを握った木葉が、わたしの文字の隣に角張った字を記す。
『付き合う?』
「うん」
しっかりと顎を沈めて頷けば、ゆるゆると木葉の目尻と口角が綻んでいく。じんわりと頬が染まっていくのを隠したいのか、木葉が手の甲で口元を覆ってしまった。
「やっべ。すげえうれしい……」
大きな手の隙間から覗く口元はゆるみっぱなしだし、目なんて溶けている。わたしまで嬉しくなって頬が紅潮していく。
これからもっといっぱいの好きを噛みしめることになると思うと、心臓が保つのかだけ心配だ。