BridgeOfStardust

監:帰る場所はここ

「わたし、絶対帰るんです」

 俺を引き寄せた一本芯が通ったまっすぐな眼光で、残酷な言葉を吐露した監督生。弾ける無邪気な笑みをこんなに憎たらしく思ったことはない。身体の末端から凍りついていく。

「そう、か」

 なんとか絞り出した声は、我ながら硬い。それでも、頬を緩ませて、ここではないどこかを見つめる監督生は俺の様子など気に留めない。その状況が一層の痛みを与える。
 どこまでも信頼された担任という立場。おかげで手元にすり寄ってくるけれど、俺にとっては残酷な言葉ばかりを零していく。とっくに傷だらけの内側から、じんわりと血が滲み出す。鈍痛は広がって俺の思考を鈍らせる。

「会いたい人がいるから、帰らなきゃ」
「……それなら、術を調べないとな」
「はい! 頑張ります」

 傷口をえぐる言葉に、噛み締めた奥歯が軋む音が頭蓋骨に響く。
 痛い、欲しい、いたい、ほしい。
 次から次へと溢れる己の訴えが、どろりと溶け出した。そのドス黒さは彼女の清らかな信頼を黒く塗りつぶす。

「まあ、そんなものすべて奪ってやるが」
「せんせ、い……それ、」

 明白な動揺と困惑。ゆれる瞳からは芯が抜け落ち、一歩後ずさった。やわらかな表情は凍りつき、不自然に歪む。
 意識の一部がこの状況を他人事のように俯瞰し、「可哀想に」と告げた。でもすべては彼女が蒔いた種。三年というたっぷりとの時間をかけて深層部で育ったそれが芽吹いたにすぎない。俺なんかに懐いてとびっきりの秘密を打ち明けたり、普段は見せないあまえたお強請りをしてみたり、俺の根っこに寄り添ったりするから悪い。
 悪い男に目をつけられたが運の尽き。

「男は選べよ、と教えてやったのに」

 きゅっと頼りな下げに寄った眉。ふるえる指先。それらすべても愛おしい。

「駄犬は俺がだいじに躾けてやろうな」

 他の誰かになんてくれてやるものか。



手癖で書いたクル監