白い肩。均一に鍛えられ、綺麗な盛り上がりの三角筋と、上腕二頭筋。そこを跨るようにして一際白い天の川が一筋。
四六時中太陽の下にいるけれど、制服をきっちり着ているか、ウエットスーツを着込んでいるかの進次の身体は、思ったより日焼けをしていない。黒々とこんがり焼き目がついていてもおかしくない日常を送っているのに、薄っすらとした日焼けの跡があるだけ。
怪獣みたいなイビキをかいて爆睡している彼の肩に、つぅーっと指を這わせる。起伏のある張りのある筋肉で一箇所の薄い皮膚。
現場でウエットスーツを割いて彼の皮膚と筋肉を傷つけた裂傷の跡。大げさな包帯をして帰宅したときは、衝撃と心配で卒倒するかと思ったのが随分と懐かしい。
勲章、と呼んだら怒られるのかもしれない。でも、この世とあの世の瀬戸際が漂う大海原で、掬い上げた命は数え切れないのだから、ひっそりと勲章と呼んでもいいだろう。
「ちゃんと生きて帰ってきてよね」
指先で辿る古傷は肌と肌を縫い合わせた跡がある。ゆっくりと隅々まで指を這わせる。最後に唇を寄せた。わたしよりも体温の高いぬくもりが薄い皮膚越しに伝わる。
「ん、」
イビキが途切れて、まぶたにギュッと力が籠もる。
起こしてしまったか、と少しの申し訳無さがよぎる。きっと疲れ切っているし、明日また勤務なのに。まあそれなら、手荒いセックスを控えてくれれば一番いいと思うが。
ゆっくりとそして薄く開いたまぶたの隙間で、進次と視線が絡まった。腰に回った腕に力が入って引き寄せられる。
「寝れん?」
まだ少し汗の余韻が残る彼の胸元に、仕方がなく潜り込んだ。
「心配だもん」
「安心せえとは言えへん。けどな絶対戻るから、信じて待っとけ」
いつだって不安だ。いつか戻ってこないのではないか、いつかとんでもない大怪我で戻ってくるのでは、と。それでも活き活きと日々を過ごす彼に、止める術は知らない。縋れるかわいさなんて持ってない。
そんなわたしの揺蕩う不安を拾い上げて、彼の心の隅っこに住まわせてくれるのだから、つくづく懐のでかい男だ。
「寝よか」
大きなあくびを零した彼にすり寄って瞼を閉じる。
「イビキ、静かにね」
「そら、無理やな~」
眠気を孕んだぼやけた声でふたりで静かに笑う。今日もまた帰ってきてくれてありがとう。