天気は雲一つない快晴。クリーム色の砂浜。照りつける眩しい太陽を、きらきらと反射する海面。賑やかな海水浴客の声。
デート日和に、絶好のデートスポットに彼氏と訪れているというのに、わたしは絶賛不貞腐れていた。
ビーチにビニールシートを引いて、パラソルを立てて人工的に作り出した日陰で膝を抱えて海を睨みつける。
今年の夏に買ったばかりのかわいいビキニを着たけれど、必要はなかったかもしれない。彼の着てきたド派手な薄手の柄シャツを羽織らされて、足の指すら海水に触れていない。ツバが大っきなハットを被って、サングラスをして、ただ楽しそうに海水浴を満喫する人々を睨みつけるお時間。
「泳いでもええって言っとるやん」
「絶対やだ」
「じゃあ、そんな顔すんなや」
わたしの斜め前で仁王立ちをしたモジャモジャ頭。鍛え抜かれた上半身を披露することなく、ラッシュガードを着て腕組みをした状態でわたしを見下ろす。特徴的な細い眉を歪ませて、不満げだけど、こっちのほうが不満で爆発しそうだ。
なんたって、この男こと嶋本進次は、彼女の可愛い水着姿をみて褒めるどころか「そんな格好じゃ泳がさんからな! 大人しく渡したラッシュガードを着ろや」と曰わった。つくづく女心のわからない男だと思っていたけれど、せめてかわいいの一言くらい言えないのか。しまいには、お前はライフセーバーかと突っ込みたくなるくらい、キョロキョロと周囲に目を光らせている。
「別に泳げなくて不貞腐れてるんじゃないですぅ~」
「じゃあなんやねん!」
いちいち声量の大きい進次は、ガラが悪くその場で年季の入ったヤンキー座りをしてわたしを睨む。とは言っても、その目にはご機嫌伺いの色が滲んでいるので、ちっとも怖くはないけれど。
「カレシが構ってくれないのがムカつくんですぅ」
わたしの隣に座ることもなく、ソワソワと落ち着きなく海を睨みつけ続けている。職業病だってことはわかってる。進次の目を通してみたこの場所はきっと危険や、ヒヤリハットが溢れかえっているのだということも。
「奮発してプールにすればよかった」
「今度の休みに行けばええやん」
「その休みに呼出がかかる人は誰ですか~?」
ぐぅ、と喉を鳴らして怯んだ進次。最近なにかに呪われているかのように、基調な非番であっても要請を受けて海に飛び出していくことが重なっていたのは、さすがに申し訳なく思ってくれているのだろう。トッキュー馬鹿であっても。さすがに。
「ん、」
無愛想に差し出された右手。
「なに」
「腹減った。焼きそばでも食いに行かん?」
「しょうがないなあ」
不器用な愛情に、ゆっくりと手を重ねれば力強く引き寄せられて、立ち上がる。支えられた状態でビーチサンダルに足を通しおえれば、しっかりと繋がれる左手に、今日ようやく頬が緩んだ。