BridgeOfStardust

ふくれあがったのは

 常時変わらない光景とはいえ、思わず頬が引きつる。
 ざわざわと無数のノイズが飛び交う大広間では昼休みということもあって活気づいている。その中でも一際異彩を放っているのは、わたしの眼前ではなかろうか。いや、そうで間違いないと断言しよう。

「もう食わねえのか?」

 もごもごと動かし続けていた口をようやく止めたシリウスは、不思議そうな顔をしてわたしを見つめる。ポッターとは異なり、口内のものを嚥下してから言葉を発したり、リーマスのように頬袋いっぱいにものを詰めたりしないところや、ペティグリューのように物をこぼしたりしないところが、この男がかの有名なブラック家の出身だということを思い出させる。日頃うっかり忘れそうになるけれども。
 わたしの答えは待たずに、シリウスは彼の前にあたらしく鎮座したシェパーズ・パイに手を伸ばした。サクサクのパイ生地がほろり、と崩れる。生地の上でほくほくと湯気を立ち上がらせているマッシュポテト。一緒に絡まる羊肉はジューシーで肉汁が滲む。ブラウンソースとお肉のいい香りが向かいに座るわたしの鼻腔を擽った。それだけに飽き足らず、甘しょっぱいソースをたっぷりとまとったポークスペアリブを二つも器用に自身の皿に乗せていた。
 先程までにフライドチキンを数本、ミートパイを一切れ、それからスクランブルエッグとベイクドビーンズを貪っていたというのに、この男の胃袋はまだ満杯にならないというのか。

「……アンタを見てるだけでお腹いっぱいだわ」

 いくら成長期とはいえ、限度というものがあるだろう。一定の速度で吸収され続けている料理たちを見ているだけで、まるで自分も食べているような気分になる。それだけシリウスが美味しそうに食べているということもあるけれど、素直なところ見ているこっちが胸焼けを起こしそうだ。

「ふーん。じゃあそれもう食わないよな?」

 わたしのお皿に乗った食べかけのソーセージを視線で見つめる。その飢えた視線に何を言いたいのか理解して、苦笑いがこぼれてしまうのはわたしじゃなくても同じだろう。

「……どうぞ」
「あ、」

 皿を押しやって取りやすいようにしてあげたのにも関わらず、大きな口を開けて、大きな体をこちらに傾けたシリウスにこちらの羞恥心が滲む。シリウスが照れる素振りを一切見せないのに、わたしが照れるのは負けた気がする。

「はいはい」

 顔に出さないようにして、ソーセージを切り分ける。八重歯が覗く口に切ったソーセージを咥えさせてあげれば、にんまりと笑う黒い瞳。無駄に整った顔で満足そうに笑ったシリウスに、ただでさえ満腹気味だったわたしのお腹はもう限界だ。



性癖トラップパネル7「いっぱい食べる」
いっぱい食べるきみがすき~~$2661の粘膜ってちょっとえっちだよね