BridgeOfStardust

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金で解決できるならどんなによかったか

 世界中を見渡して比較をすれば、俺の生まれは恵まれた人間に分類されるのだろう。
 鳳家に生まれ、あの父親と兄を持って、大変だと思うことも間々ある。けれど、ハルヒを通して庶民の生活を垣間見てみれば、この暮らしで良かったと薄っすらとした安堵を抱いたことがある。
 主な要因は財力。金の力というのは強大だ。時として人を救うが、時として地獄へと突き落とす。その強大な力を使う人間次第で、毒にも薬にもなるけれど、使い方を知らなければ紙屑にもなる興味深いものが金というものだ。

「鏡夜」
「……環か」

 そして時として、莫大な財力というのは人一人の人生を容易に狂わせる。
 追い詰められた彼女は、俺に助けを求めることなく、命を絶つことを決めてしまった。俺がその動きに気づいて、こじんまりとした彼女の家に駆けつけたときには、血の海が広がったバスルームで冷たくなっていた。
 人生で思考回路がフリーズするという出来事に、遭遇したのは後にも先にもその瞬間だけだと断言できる。
 涙は出なかった。呆然としたまま触れた頬は、ゾッとするほど冷たかったことを記憶している。

「大丈夫、じゃないよな」
「いや、大丈夫だ」

 環の眉が寄る。深く刻まれたそれを一瞥して、彼女と度々見上げて星空を見上げる。
 もうあの声が俺の名前を呼ぶことはない。それどころか、薄情な脳はゆっくりと彼女との記憶を蝕んでいく。近い将来、彼女の声は思い出せなくなるんだろう。記憶の更新を行えない。声や匂いは時間経過に洗い流されてしまう。姿だけは忘れたくなくて、こっそり撮った写真を眺める日々。
 相変わらず涙はでない。喪失感でできた穴に涙は吸い込まれてるか、俺に心がないかのどちらか。唯一と言っても過言ではない、人並みの恋心は彼女が死んだあの日、亡骸とともに葬られてしまった。

「そんな顔で、大丈夫なわけないだろ」
「……どんな顔か知らないが、どうしようもないだろ」
「だけど」

 食い下がる環が言わんとしていることは手に取るようにわかる。だが、感情論でしか無い。

「金で買い戻せるのか? 彼女の命は」
「それは……」

 ようやく引き下がる様子が見えて、息を吐く。眼鏡の位置を正しながら、通知を鳴らして今しがたすべてが揃ったカードに目を通す。

「そんなことより、黒幕がわかったぞ」

 これでようやく報復ができる。もう二度と俺のものに手を出そうと思えないように、徹底的に潰してやるんだ。俺から彼女を奪ったことを精々後悔して、地獄に落ちればいいさ。



性癖トラップパネル8「死ネタ」
もともとは、丑三つ時の夢女子なので、死ネタ・離別、闇落ちお手の物!なんだけど、ここ4年くらい癖の標準時間がズレてきて朝焼けの夢女子をしてる