会社に行きたくない。それが目覚めた瞬間思ったこと。
現実逃避に二度寝をしてやろうかと思ったけれど、不意に今日は新作ドリンクの発売日だと思い出して、起き上がることができた。
弊社、まじでカフェに感謝しろ。
「おはようございます。今日は新作ですか?」
「はい!楽しみにしてきました」
KONOHAさんは、今日も素敵な笑顔でお出迎えしてくれた。いつもと違う色のエプロンはピカピカの新品のようだった。
「ブラックエプロンかっこいいですね」
「資格取れたんで」
「へ~!たしか難しいんですよね?」
世界規模のチェーン店ということもあり、品質とサービスクオリティの維持の名目で、ショップ内の資格取得があることは有名だった。どんな資格内容かまでは把握していないけれど、そこそこの難易度で、取得しても給与には反映されないらしい。あくまで自身の向上心と、取得した栄誉を目的としたもの。その証明がブラックエプロン。
新作のドリンクをカスタマイズせずにオーダーする。どことなくKONOHAさんの表情が自慢げに見えるのがかわいい。
「大学の勉強より大変でした」
「それは、お疲れ様でした」
「ありがとうございます。では、カウンターの前でお待ちください」
ちょうど前のお客さんがドリンクを受け取ったところだった。空いたスペースに並ぶようにして、カウンターの前へ移動する。ドリンク担当は今日もクニミさんで、今日もアンニュイな雰囲気だ。
「この新作おいしかったですよ」
手際よくドリンクを作りながら、クニミさんは変わらない落ち着いた声で話してくれる。最近はこの声を聞かないと一日が始まらない気がしてきていた。
「オススメのカスタマイズありますか?」
「俺はキャラメルソースかけるの好きでした」
「明日チャレンジしますね」
少しでも多く声を聞きたくて話しかければ、変化は小さいながらににこやかな笑みが返ってくる。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「いってらっしゃい。お仕事頑張ってください」
今日も変わらないお見送りに、目覚めたときの地獄の気分はもうどこかへと消えていた。ほんとに、ほんとに弊社はクニミさんに感謝してほしい。
今日もカップに描かれていたゆるいウサギのイラストに頬をゆるませずにいられない。