凝り性はどこまでも突き進んでいくというのは知っていたけど、まさかお菓子作りまでとは思わなかった。
キッチンに籠城をしている聖臣をカウンター越しに眺める。
手際よく調理を進めていく姿は、お菓子作りのきっかけを与えてしまったわたしよりもウンとスマートなのは、ここ最近オフのたびに勤しんでいるからに違いない。あっという間に要領を得ていくあたりが、さすが聖臣というべきか。
「おい」
じろりとわたしを睨む聖臣に肩を竦める。
「だってぇ~、もったいないじゃん」
隙を見て手を伸ばしたらから、バレないと思っていたのに。余っていたナッツをつまみ食いしたのは普通にバレていた。
「勝手に食うな」
じとり、と座った目がわたしを射抜く。いつもながら眼力が強くて、取った行動はたいしたことじゃないはずなのに、とんでもないことをしでかしたような気分にさせられる。
「悪い子でごめんね?」
どうにかこの空気から逃れたくて、意識的にかわいこぶって上目遣いで攻めてみる。一瞬だけ眉を寄せた聖臣は、ちいさく息を吐き出す。
「食うならこっち」
出来立てほやほやのクッキーを口元に運ばれてくる。砕いたナッツが混ぜ込まれた生地とバターの匂いが食欲を誘うそれ。もちろん喜んでそれを口の中に収める。
「え、おいしすぎ」
口の中で広がって鼻に抜けるバターの甘い香りと、香ばしいナッツの風味。食感もサクサクの生地とナッツの歯ごたえ。ついついもう一枚食べたくなる後ろ髪を引かれるような味わい。
どんどんと腕を上げていく聖臣に驚きを隠せずにいれば、突然影がさす。あっという間に触れ合って弄った体温は、ぬるりとしたぬくもりを残して離れていった。
「ん。まあ悪くないな」
目を細めて笑った聖臣たった今おきたことをようやく理解する。
「聖臣のバカ!」
「馬鹿じゃない。お前より成績良かっただろ」
「そうじゃない!」
最初につまみ食いをしたわたしが悪いのかもしれないけれど、その仕返しの方法が、タチが悪い。わたしの言いたいことだってわかっているからそんな悪い笑みを浮かべているんだ。
今度はわたしが聖臣を睨みつけて、そのままキッチンから逃げ出した。