強がりで、人に弱みを絶対に見せない先輩。負けず嫌いで頑張り屋で、影の努力を怠らない人。
一部の弱い人間からすると、”可愛げがない”と映るらしいけれど、ほんとは寂しがりで泣き虫なことを知っている俺からすれば、かわいくて、愛おしくて仕方がない存在。そんな上辺しかみない奴らは、一生彼女の良さに気づかなければいい。いっそ俺だけが知っていればいい。
「先輩、あのさ、」
「二口、どうしたの?」
言い淀む俺は、どうやったら先輩の居場所になれるか手探りで、自分でもらしくないと思いながらも、無理矢理は暴きたくなくて言葉を探す。
それなのに、彼女はあっけらかんと言った様子の口調で、首を傾げた。
きっと彼女には俺の言いたいことなんてお見通しで、あえて知らないふりをしている。そういった余裕がずるくて、まだまだ敵わないのだと現状を突きつけられる。
「俺の前では、そんな顔して笑うなよ」
「そんなひどい顔してる?」
苦笑いを浮かべた先輩は、自分の顔をペタペタと触る。
「俺は、いつものがいい」
「そっか」
わずかに寄った先輩の眉。言葉選びをしくじったことに気づいて、俺の眉も寄ってしまった。
「今のわたしはきらい?」
「そーじゃなくて!」
上目遣いでわざとらしく聞いてくるのに、その可愛さに視界がぐらりと揺れるし、疑問にもなっていない疑問を必死になって否定したくなるのはどうしてか。そんなふうに伝わっていないことは、彼女の態度を見ればわかるのに、一ミリでも勘違いの可能性を否定したくなるんだ。
「試してごめんね」
ふたりの間の空気を、くすくすと小さく震わせて笑った先輩の腕を引く。
抵抗なく腕の中に収まった身体を抱きしめる。背中に腕を回して、身を屈めて彼女の肩に顔を埋めて。
「ほっとけない。弱さも強さも全部俺に触らせろよ」
「欲張りさんだね」
それでも余裕を貼り付ける先輩に思わず唸り声が溢れる。
「そーだよ。悪ぃかよ」
耳をすませば、彼女の心音がゆるやかに早まっていることに気づけるのに。表面を取り繕われてしまうのが許せない。
「わたしが一人で立てなくなったら責任取ってくれるならいいよ」
「上等じゃん」
やっと俺の背中に腕を回した先輩は、詰めていた息を重く吐き出した。縋るように、強く握られたシャツは見て見ぬふりをして、彼女を抱きしめる腕に力を込める。一緒に俺の全部が伝わればいいのに。