リビングのフローリングで四つん這いになる彼女。伸びた脚は震えて、つま先が丸まる。俺にとってはなんてことのないけれど、彼女にとっては負担が強いらしく、ひどく余裕のない表情を見せる。
「若利く、ん、まって」
「さっきからそればっかりだろ」
俺にタイムをかける彼女は湿った熱い吐息を零す。しっかりと耳はそれを拾った。それでもまだ足りていない。だから気にもとめず、震える彼女の脚を抑え込む。
「あっ! ほんとに無理!」
ひときわ高い声が響く。乱れた呼吸が、声を震わせていた。
「痛い、痛い!」
その言葉に渋々彼女の身体にかけていた負荷を軽減する。ヨガマットの上に勢いよく崩れた彼女は汗だくでその場に蹲る。
「体力差って知らないの!?」
息も絶え絶えにそう非難する彼女に、俺は肩を竦める。
「だから支えていただろう?」
「そうじゃない!」
すぐに下がってしまう脚を支えて、フォームを正していた。本来自力で、引き上げてキープするところだが、彼女にはハードルが高いと俺にもわかっていたから。
それなのに、何が不満なのか機嫌を損ねた彼女は、続けて不満を零し続ける。
「だから嫌だったんだよ~」
そうかと思えば、今度はさめざめと泣いたふりをする。
「それならダイエットなんて諦めろ」
最初から必要なんて無いと言っているし、太ったと喚くけれど誤差の範囲。むしろ健康的でいいと言っても聞かなかったのは彼女だ。
それなら、単純に体重を落とすだけでは不健康だからと、筋トレで体を絞る方向を進めたというのに。メニューの四分の一も終わらないうちにこの状態になっていた。
「これはもはやダイエットじゃなくて、トレーニングなんだってば……」
「はじめからそう言ってる」
俺の言葉に思いっきり顔を顰めた彼女。今度は呼吸を整えるとは別の大きな呼気を吐き出した。おそらくため息。
「わかりました。やめます、ダイエット」
「そうだな」
伸び切った彼女に覆いかぶさって、汗で少し湿った前髪を払う。覗いた額にそっと唇を寄せれば、彼女の機嫌はゆるりと浮上する。だから今度は唇同士を寄せれば、目尻を溶かした彼女を抱き上げる。