BridgeOfStardust

ス◯バ店員あきらくんシリーズ③

 今日は朝からついていないかった。昨晩アラームをセットし忘れたのか、無意識に止めたのか、どちらかは定かではないし究明する気もないけれど、十五分の寝坊をかました。目覚めた瞬間血の気が引いたし、自分でも驚くほどシャキッと起きて支度を終えて慌ただしく家を出たのは、いつもより五分遅れたくらい。せっかく巻き返したと思った時間も、電車通勤のおかげで無情にも遅延に巻き込まれて結局、始業を十分過ぎての出社となってしまった。
 いくら日々のルーティンとはいえ、そんな中で出社前にコーヒースタンドへ寄ってくることはできず、荒んだ心のまま朝の業務に挑んだ。

「あれ? 今日お休みなんだと思いました」
「寝坊と電車遅延で……」
「なるほど。朝からお疲れさまです」

 最低限の朝の業務を片付けて、会社を抜け出していつものコーヒースタンドへ。いつもとは異なる時間帯のせいで、例の彼はいないようだった。わたしの癒やしの時間が……と内心でがっかりしながら、新顔くんもといいKONOHAさんとおしゃべりを交える。名札の下段に書かれているのは各スタッフのお気に入りのコーヒー豆だと教えくれたのは彼で、そのおかげで上段が名前やニックネームだということを知った。
 もうコーヒースタンドも慌ただしい時間を過ぎたらしく、今カウンターに出ているのは彼と時々みかける溌剌とした女性スタッフだけだった。
 別店舗から異動してきたという彼は、随分と気さくで人の懐に入り込むのが随分とうまい。営業職とか向いてそうだなあ、なんて思いながらメニューを眺める。

「あ、」

 カウンター側から聞こえた声に顔を上げれば、珍しく目を丸めた例の彼がいた。緑色のエプロンをつけていない、グレーのハイネックのセーターと黒のチノパンで、首から社員証をかけていた。

「あ、おはようございます」
「おはようございます。今日来ないのかと思った」

 カウンターから出てきた彼がわたしの隣に並んだことで、思っていたよりの彼の身長が大きいことに気づく。お店のブランドイメージを遵守したシンプルな服装は、彼の魅力を引き出すのに一役買っていて、スタイルの良さを強調していた。

「寝坊と遅延で、朝の仕事片付けてからきました」
「お疲れさまです」

 小さく顎を立てに動かした彼は、納得してくれたらしい。眠そうな重たい瞼なのに、しっかりとした視線でわたしと、わたしの手元のメニューを交互に眺める。

「今日は?」
「ホリデーブレンドティーのラテにしようかなって思ってます」
「全部ミルクで、ハチミツかけるのがおすすめ」
「じゃあそれにしようかな」

 これまた珍しくおすすめのレシピを教えてくれて、少しだけ驚きが表情が出そうになる。続いてニヤけそうになるのを押さえて、KONOHAさんに向き合った。

「はーい。いつもどおり熱めで作りますね~」
「ありがとうございます」

 支払いを済ませて、ドリンクカウンターへと並ぶ。

「で、クニミはなにすんの?」
「キャラメルラテ」
「はいはい。いつもどおりな~」

 軽快な会話を盗み聞いて、彼の名前を知ってしまった。
 くにみくん。口の中だけで音を転がして噛みしめる。名字だろうな。
 そして、いつもキャラメルラテを飲んでいるのか。かわいいな。甘いものが好きなのかな。勝手に思いを馳せて口元ゆるみはじめてしまう。

「電車通勤なんですね」

 またわたしの隣に並んだくにみくんは、当然のように話しかけてくる。

「そうなんです」 

「お待たせしました」

 けれど待っているお客さんがいなかったせいで、ドリンクはあっという間に出来上がってしまった。せっかく癒しタイムになると思ったのに、残念だ。

「ありがとうございます。では、」
「ミョウジさん、頑張ってください」

 驚きに目を丸めてしまった。
 にんまりと目と口元を歪めたくにみくんは、トントンと胸元を指さした。自分の胸元へと視線を下ろせば社員証をつけたままだということに、今更ながら気がついて、慌てて手で覆う。くすくすと、小さく彼が笑うから余計に恥ずかしくて、頬が火照っていく。

「クニミさんも一日頑張ってください!」

 知ってしまった名前を読んで仕返しを試みたけれど、彼の反応を確認するのは怖くて逃げ出した。今日は一日波乱万丈そうだ。



前回の新顔くんは木葉でした~~!他にもキュのキャラを出せたらいいな、と目論んでるのでお楽しみに