BridgeOfStardust

ス◯バ店員あきらくんシリーズ①

 労働なんて地獄以外の何物でもない。働かずに済むなら働きたくなんて無いというのに、この世は無慈悲。労働をした稼ぎがないと生きていくことすらままならないのだから。
 週五日の最低八時間の地獄への収監が免れないというのであれば、少しくらい有意義なものにしたい。己を誤魔化して奮起しなきゃ働けない。
 ということで、わたしは出社前に毎朝コーヒースタンドでドリンクを買うことにしている。その日の仕事の内容、気温などを考慮しながら、そのとき一番気分が上がるオーダーをする。自分でカスタマイズを考えてオーダーするくらいには贔屓にしていた。

「いってらっしゃい。お仕事頑張ってください」
「ありがとうございます」

 ホスピタリティの高いことを売りにしているだけあって、接客の質がいい。週五で通っていれば顔も覚えられていて、それでも馴れ馴れしくはならない、いい塩梅の接客。
 朝のシフトに最近加わった、すこし眠そうな男の子。笑うとすごくさわやかで、アンニュイな雰囲気が残る。記憶力がいいのか、割とすぐにわたしの顔を覚えてくれて、ドリンクの受け渡し時にお見送りの挨拶をしてくれるようになった。
 地獄への出勤だったとしても、こうして応援してもらえるとちょっぴり心が弾む。

「えーっと、」

 さっとメニューに目を通して、今日のオーダーを考える。今日はやけに底冷えするからあったかくて、やさしい味が飲みたい気分だ。

「ホットのウーロン茶ラテにハチミツかけるのおすすめですよ」
「おいしそう。じゃあそれを全部ミルクで」

 まさしくそんな感じのメニューを求めていたのでホクホクと嬉しくなってしまう。いつもの彼が手早くレジを打っていくのを眺めていた。

「いつもどおり熱めでよかったですか?」
「あ、はい」

 淡々とした声は、起動しきっていない朝には心地がいい。このまま目を瞑れば眠りに戻れそうなほど。

「カウンター前でお待ちください」

 にっこりと営業スマイルを浮かべた彼は、レシートは手渡さない。わたしがいつもレシートを要らないと言っているのも覚えているらしい。
 カップにオーダーを書き込んでいる彼を横目に眺めながら、カウンターの前にできている列に並んだ。オフィス街にあるコーヒースタンドは毎朝盛況で、ドリンクをつくるスタッフはいつも慌ただしくも穏やかかつ丁寧にドリンクを作っていた。ぼんやりその様子を眺めるときもあれば、モバイルオーダーでバタバタと受け取っていく日もあれば、スマホをピロピロ鳴らす職場からのメッセージへの返信に必死のときもある。いろんな時間を過ごしてきたけれど、スタッフ個人に興味を示したのははじめて。
 次のお客さんを接客している彼は、さきほどに比べてやっぱり少し眠たげな印象。覇気がないと言うべきか、大人しいと言うべきか、さっきの笑顔は幻だったのかもしれない。

「ホットウーロン茶ラテのハチミツカスタムの方」

 彼のことを眺めている間も着々とドリンクは作られていて、慌てて小さく手を挙げる。

「熱めでお作りしてるので、お気をつけて」

 カウンターの前まで進み出てカップを受け取る。さて、今日も今日とて労働に繰り出そう。

「いってらっしゃい」
「っ、いってきます」

 店舗を出る直前、背中に彼の声が届く。心臓がいつもと違う音を立てる。一瞬だけリズムを変えた心拍を、胸に手を当てて諌めつつ、オフィスへと向かう。
 タイムカードを切って、自分の席へと座ったとき。視界に入ったカップの側面。

「あ、」

 そこにはいつもはないメッセージが描かれていた。”お仕事がんばってください”と簡潔なそれと、丸いフォルムのかわいいクマ。
 書いてくれたのは彼だろう。そう思うと口元がゆるむのが堪えきれなくて、朝からご機嫌で仕事をはじめられそうだ。



スタ◯店員の国見ちゃんに出会いたいんですけど???こんなに◯タバ通ってるのに会えないのはどうして?