吹き抜けた風が髪を攫って、首筋を撫でる。冷え切った冬色のそれは体温も攫っていき、身体を竦めた。
突然訪れた真冬のような気候。一昨日までは、秋の心地よさに心弾ませていたし、週末のデートに着ていく新品の秋服のコーディネートだって考えていた。それなのに、ガクンと右肩下がりに急降下した気温。冬支度なんてしているはずもなくて、なけなしのカーディガンの袖を引っ張って虚しい抵抗をする。
「さっみぃ~」
部室から出てきた二口たちは、制服の下にばっりちジャージを着込んでいた。ほんの十分前まで汗だくで部活に勤しんでいて火照った身体でも、この気温は寒く感じるらしい。
「は?お前それだけ?」
首を竦めて、指先を丸めて。寒さを凌いで二口を待っていたわたしに、二口は大きな目を丸めた。その脇を会釈をしながら、青根くんや黄金川くんたちが帰路へとついていくのを見送った。
「これでも今朝慌ててカーディガン出してきたんだから」
「風邪引くって」
「そうだけどぉ……」
哀れみの視線を頭上から浴びて視線を逃がす。
そんなこと言われてもこうも急に寒くなられると、準備が追いつかない。去年はどうやって越冬したか思い出してクローゼットを漁るところからスタートしなくてはいけないのに。
「おら、これ着とけ」
頭から被せられた布。手繰り寄せてみれば二口が秋になってからジャージの下に着込んでいた前開きのパーカーだった。
ふわりと、二口が使っている制汗剤のシトラスが香る。
「ないよりはマシだろ」
ちょっとだけ不貞腐れたみたいに唇を尖らせるのは、二口なりの照れ隠し。それならもう一声欲張って、かわいい一面をもう少し覗いてみてもいいだろうか。
「それよりも手繋いでてくれたほうがあったかいかも」
カーディガンの隙間から出した指先で、二口のジャケットの袖をつまむ。益々険しい顔をした二口は、唇をへの字に曲げた。
「いーから早く着ろって。そしたら手でも腕でも繋いでやるから」
そして短くて形のいい眉が中央に寄る。乱暴にわたしからパーカーを奪い取ると、わたしへそれを着せようと世話を焼く。ふたまわり以上大きい二口のパーカーは、ブレザーの上からでも羽織れるサイズ感で、それでも指先が余るくらいだった。
「ん、」
「明日も着ててい?」
「だめ。あったかい格好してこい」
眉間のシワも、唇の歪みも解けて、目尻を溶かして微笑む二口に今度はわたしが照れる番だった。紅潮する頬に気づかれないように、そっと俯いて今度こそ二口と手を繋ぐ。
「残念だなあ」