ずっと憧れていた。時に華やかに、時にクールに、時に愛らしく、耳たぶを彩りファッションの幅を広げてくれる耳飾り。最近はイヤリングでもかわいいデザインが増えてきたけれど、学生時代に胸をときめかせてくれるデザインは圧倒的にピアスが多かった。だから中学生の頃からずっと憧れていたピアスという存在。
大学生になってようやく厳しい校則から開放され、いざピアスホールを開けるぞ、と意気込んでいたはずが。
「赤葦~、怖いってむり~~」
「開けなければいいだけでは?」
ピアッサーを買って、説明を読んで開封したまではよかった。耳元に当てたときのギチギチというバネの音にビビり、未知の痛覚に心臓が縮み上がり、結局ピアスホールは開かないまま。
講義の合間のカフェテラス。そよそよと初夏の気配が漂う風が前髪を揺らす。
見慣れた呆れ顔の赤葦は、紙カップを傾けて、机に突っ伏すわたしに視線を落とす。
「やだ憧れなの!」
「そういうもの?」
「そう!」
怖いと憧れの間で揺れ動く。入学してから始めたバイトの給料が入ったら、専用のクリニックに行ったほうが早い気がしてきた。
少しでも早く開けて、ホールを作りたかったけれど。まあ自分が小心者だからしょうがない。
「じゃあ、俺が開けてあげようか?」
さもありなん。けろりとした表情で零した赤葦に、わたしは目を丸めた。
「え、いいの?」
「いいよ」
人の耳に穴を開けるなんて行為、わたしだったら御免被りたい。それでもあっさりと快諾する赤葦に、最初から頼ればよかったと肩の力を抜いた。
催促されるがまま、持ち歩いていたピアッサーをふたつと、使い切りのコットンタイプの消毒液を渡す。説明に目を通す赤葦の視線を追っていれば、随分と真剣だった。でもそこに覗く好奇心に気づかないほどの仲ではない。知的欲求の強い赤葦らしいと、小さく笑った。
耳たぶに記しをつけて、大人しく姿勢を正す。赤葦の手入れのされたわたしよりも少し太い指が耳に触れる。擽ったくて身を竦めそうになるのを堪えていれば、「いくよ?」なんて耳元で囁くなんて。余計にくすぐったくて、ぎゅうと目を閉じる。
「できた」
バチン、と大きな音に驚いている間に貫通していた。予想していたよりも痛みはなく、じんわりと熱を感じる程度。
鏡で見てみればきらりと光るファーストピアス。誕生石のストーンは本物ではないけれど、一等美しく輝いているように見えた。
「いいね。ピアス贈ろうかな」
赤葦の指先が耳たぶを弄ぶ。目尻を細める仕草は見慣れなくて、ざわざわと胸が騒がしい。
すりすり、と耳を撫でられるのが擽ったくて、我慢しきれず身を捩らせた。
「あか、あし?」
「今すっごく気分がいいかもしれない」
うっそりと下瞼を持ち上げて口端をしならせて笑う赤葦に、脳が危険信号を発した。なんかとんでもないことをしでかした気がするけれど、いったいどこからやらかしていたのだろうか。