腰を抱く腕は、ただ抱きしめるだけではない。身長差を埋めるように引き寄せるように力強いせいで、踵が浮いて爪先立ちになってしまう。それでもふらつくことはないのは、倫太郎が細身に見えるのに筋肉質であることと、さらにバレー部の中でも体幹がいいからに違いない。
鼻先をこすり合わせてわたしの目を覗き込む倫太郎の目は、どろりと溶け出た熱がありありと見て取れる。この世で一番愛おしいものを見るような目で、眦をやわらかく細めるものだから、心がこそばゆい。
「ねえ、キスしてい?」
囁きかける声は熱に浮かされていて、肌を擽る吐息に肌があわだつ。ぞくりと神経が逆なでされ、倫太郎の発する熱で溺れそうになる。
「だめ」
「ほんとにだめ?」
すりすりと鼻を擦り寄せて、抱きしめる腕の力を一層強くする倫太郎。今にも爪先が浮いてしまいそうだ。更に近づいた距離に、胸がときめき、思考がぼやける。
「ねえ、だめ?」
あまったるい雰囲気に飲まれてしまえば、頷くしかなくて、細やかに小さく顎を沈めた。それを見逃す倫太郎ではなく、すぐに唇が触れ合う。
しっとりとして熱っぽい唇が押さえつけ、離れて。何度も何度も重ねては離れていく、ゆっくり思考が溶け始めた頃に啄まれる。やわらかな感触がもぐもぐと食むのが面白くて、くすくすと笑ってしまう。目尻をとかした倫太郎はゆったりと唇を舐めるその色気に、お腹が痺れる。
侵略してくる舌を受け入れ、絡められる舌を一生懸命追いかける。けれど、粘膜が擦れる気持ちよさに腰が砕けても抱え込まれてしゃがみ込むことは許されない。ぬるぬると蠢く舌は生き物のようで、触れ合ってない箇所がないように埋め尽くす。
「りん、……しつこい、っ!」
はふ、はふ、と荒い息で、どうにか倫太郎の肩を押しやって距離を取る。にんまりと細められた目は欲に乱れていて、嫌な予感しかしない。
「でもすきでしょ?」
「もう、知らない!」