BridgeOfStardust

夏のコントラスト

「サイアク!また焼けちゃったー」

 やけに響いて聞こえた声に、視線が無意識に動く。声の主を捉えて、響いて聞こえた理由に納得する。
 いつも一緒にいる女生徒に、半袖のワイシャツの袖口を捲って腕を見せたアイツの姿に、心臓がどきりと音を立てる。白と小麦色のコントラストが目に痛い。

「あの日焼け止めじゃダメだ」

 ポニーテールを揺らして騒ぐ姿に、俺の脚は自然とそちらへと向かう。首筋も、腕も、脚だって健康的な日焼けをしている。太陽をたっぷりと浴びて、汗を流して、真剣な眼差しでラケットを構える姿を脳裏に思い出す。短いスコートをひらめかせて、日焼けした脚の面積が広がったとき、視線が釘付けになったのを覚えている。

「健康的でいいだろ」
「よくない!」

 キッと鋭い視線が俺を睨みつける。そこに込められた予想外の必死さに少しだけたじろいでしまう。

「白布にはわかんないよ」

 言葉尻が小さくなって、俺を睨んでいた視線も足元に落下する。
 たしかに彼女の気持ちはわからない。小さい頃から、日光に浴びた後は真っ赤になってヒリヒリとした痛みを数日伴い、所謂肌が焼けて小麦色になったことなど一度もない。小学生の頃はそれがすごく嫌だった。なんだかかっこ悪くて、弱い気がして、真っ黒に日に焼けて運動場を駆け回る奴らが心底羨ましかった。

「俺は好きだし、羨ましいけど」

 掴んだ彼女の手首は簡単に俺の指が回った。その細い腕と、俺の手の甲の色のコントラストは強い。

「ほんとそういうとこ!」
「なんだよ」

 腕を振りほどかれたことに目で文句を言って固まる。俺が掴んでいた腕を抱きかかえた彼女の顔が真っ赤になっていたから。
 その意味を察することができないほど、鈍感ではないと思う。

「気になる人のほうが白いんだもん」

 ニヤニヤと笑う彼女の友人を小突いた彼女は、教室の喧騒に掻き消えそうな小さな声で漏らした。彼女に寄って追いやられた友人は、また別の友人の元へと駆け寄っていく。
 ふたりきり、と言える状況ではないし、好奇の目がちらほらこちらに向いているけれど、それでも今俺達はふたりの世界にいる。

「かわいくいたいじゃん……」
「かわいいの基準は人それぞれだろ」

 そう言って視線を逸らすこと自体がもはやかわいいと思う。いじらしい態度に、好かれたいと努力する姿勢。どれも充分すぎるほどにかわいい。
 本人にその自覚がないところまで含めて。

「俺はいいと思う」

 素直にかわいいと口にできたわけでもないのに、小っ恥ずかしくて視線が逃げる。

「ふーん」

 視線の端で、彼女がはにかんだのを捉えて、正面で見なかったことを少し後悔。綻んだ目尻に胸をときめかせながらも、さっき垣間見た二の腕のコントラスト思い出して、一息つく。

「でもあんま肌出すなよ」

 あんな危なっかしいものを無闇矢鱈に晒されたら堪らない。ほんの少しの出来事だったにも関わらず、疚しい思考がチラついて離れないというのに。他の男にも見られた可能性に、そいつらの記憶を消し去りたくなった。まだ抱く権利もない独占欲の気配にそっとため息を零した。



女心に理解が皆無な白布賢二郎がかわいくて食べちゃいたい