蒸し焼きの釜の中を再現するような暑さ。都心部のビル群と、舗装された道路との照り返しでより一層暑さが増している。
こめかみから輪郭を伝う汗が不快で、雑にハンカチで拭う。オフィスビルの窓硝子に反射した太陽光が目に痛い。
「あきのり~とける~」
「俺もとけそう」
日傘の角度と格闘して、太陽から隠れん坊をしている彼女は、反対の手にした期間限定のフラッペを首筋に当ててどうにか体温を下げようと試みていた。
足早に目的の商業施設のエントランスへと向かう。たくさんの人が行き交う流れから、かすかに冷房の心地良い風を感じる。自動ドアを潜り、一歩踏み込めばそこは楽園だった。
「は~すずし」
熱っぽいため息を吐き出した彼女は、ゆったりと脱力する。火照った肌の熱を攫っていく冷房の風に、俺も息を吐き出した。
もう当分この空間から出たくない。
日傘を鞄にしまった彼女の片手がようやく空いて、すかさずその手を攫う。指を絡めてしっかりと手を繋いでも、汗ばまないこの空調管理が行き届いた空間は楽園にも思えた。
「で、今日のお目当ては?」
本日のお誕生日様であり、お姫様の彼女は途端に表情を煌めかせた。瞼に塗られた細かいラメが眩い光を放つ。
誕生日は彼女のショッピングに付き合って、彼女のオネダリしたものをプレゼントする約束。誕生日当日に有給をもぎ取ったデートも含めて、彼女への誕生日プレゼント。
「新作のコスメもみたいし、アクセサリーとスニーカーもみたい!」
「はいはい。なんなりと」
うきうきとした彼女は俺の手を引いて張り切っている。その後姿がかわいくて自然と表情がゆるむ。
なんなりと、なんて言ったけど、ひとつだけコーナーを阻止しなくてはいけない。俺のボディバッグの中で、出番をいまかいまかと待っている小さな小箱の中身。今晩のディナーの席でサプライズするから、リングのコーナーだけは近づかせないように誘導しなくては。