部活が終わって着替えるよりも何よりも先にスマホを確認する。それは俺にとって随分前から刷り込まれたルーティーン。
散々体力を搾り取られた後だというのに、双子は騒々しく言い合いをしている。それをBGMに、新着メッセージを通知していたアプリを立ち上げる。
『色んな意味で部活終わった』
ぺったりと潰れたうさぎのスタンプと共に数分前に送られていたメッセージに、口元がゆるんで、疲れが緩和する。
あの日であったのは、俺と同じように兵庫まで遥々バレーをするために地元を離れた子だった。俺とは違うのは、彼女の場合は両親の反対を押し切って、こっちに来たせいで、頻繁に電話がかかってくるということと、彼女はまだベンチメンバーだということ。それでも女子バレーの中では強豪に名を連ねる高校で、ベンチ入りを果たしているのは充分に凄いことだと思う。
『おつかれ。こっちも終わった』
メッセージといっしょにスタンプを返す。すぐに既読はつかないことを確認して、のっそりと着替えを始める。寮に戻ったらどうせすぐにシャワーを浴びると分かっていても、部活中にかいた汗の量は尋常ではなく、このまま制服を着るのは躊躇われる。ボディシートで拭き取っていけば、多少はマシになるけれど、今度は特有の粉っぽさが肌に残るのが気持ち悪い。早く帰ってシャワーを浴びたい。
Tシャツを着替えて、ワイシャツに袖を通してボタンを止めていく。あまりに喧しかった双子がまた北さんに叱られているのを横目に笑う。退屈しない。スラックスを履き終えたところで、スマホが振動する。
『すなくんは? 練習楽しかった?』
どんな声音で俺の名前を紡いで、尋ねるんだろう。穏やかで耳心地のいいあの声を思い出して、ひっそりと口元をゆるめる。
「じゃあ、お先です。お疲れ様でした」
荷物を適当に押し込んだスポーツバッグを肩にかける。スマホを握って返信を打ちながら、帰路へと足を伸ばす。
「スナ!置いてくんか!」
「だって、待ってたら夜が明けちゃうじゃん」
勢いのある侑の声に肩を竦める。俺の足止めをしようとする侑の後ろで、銀も着替えを終えて荷物をまとめていたし、治も手早く着替えを進めている。これは他のふたりにも置き去りにされそうだと、薄く笑う。
「なわけあるか! そんなかからへんわ!」
「じゃあね」
「おい!」
騒がしさを捨て置いて、部室のドアを閉める。ドア越しにまだ騒いでいる声が漏れている。またスマホが震えたのを合図に、意識をそちらへと切り離す。
『今晩も通話していい?』
『いいよ。待ってるね』
すぐさま返信が返ってきたあたり、もう彼女は寮に帰ったのだろう。俺も早く帰ろうと、夜道を進む足を速めた。
今日はどんな話をしようかと思考を巡らせる。知りたいことも、聞いてみたいこともいっぱいある。それ以上に、眠る前にあの子の声を聞いていたい。通話をしながら眠りについた日は、いつもよりよく眠れる気がする。
いっそ寝落ち通話とかできればいいのに。それを言い出すだけの関係値はまだ足りなくて、コツコツと距離を詰めていかなくては。
さて、今日は恋バナでもしてみようか。