BridgeOfStardust

ラリーを繋げ(一目惚れシリーズ2-4)

 常連、と言っても過言ではない程度に通い詰めたコーヒーショップ。ホスピタリティとかいうものをモットーにしているそのお店は、俺のことを早々に認識していた。きっとバレーボールをしていることもバレているけれど、そこはホスピタリティを極めているだけあり、当たり障りのない世間話を交えるくらいの接客で、気持ちよく通えている。
 何より、例の笑顔が素敵な彼女とすこしだけ仲良くなれたと思う。カップによくイラストやメッセージを書いてくれるし、好む飲み物も覚えてくれて、そのたびに心臓が痛いくらいにドキドキする。

「あれ?」

 ぐるりと店内を見渡すけれど、やっぱり彼女の姿が見当たらない。たしか水曜と土日以外はいつもカウンター内にいるのに。土日はどちらかが休みで、そのこりの片方はいたりいなかったり。事務作業をしたり、他店のヘルプにいったりと忙しないと嘆きを覗かせてくれたのが嬉しくて覚えている。
 会えると思って練習前に足を伸ばしただけに、ちょっぴりさみしい。

「今日は何にしますか?」

 そうレジで声をかけてくれた店員さんも、何度か顔を見たことがある。彼女について聞いてみようか、それは失礼かと悶々と悩んでいる間に注文は終わり、カウンターでドリンクが出来上がるのを待っていた。
 病気や怪我だったら心配だ。でもだからといって、俺にできることは何も無い。だって連絡先すら知らないから。知っているのはシフトと、名札にアルファベットで書かれた名字だけ。漢字すら知らない。その事実が伸し掛かると、しょんぼりと気落ちしていく。 

「ミョウジは、今週いっぱい別店舗のヘルプですよ」

 にんまりと、誰かに似た悪戯な笑みを浮かべた店員さんに、顔から火が出る。何を考えていたのか、他人に読み取られていたことが恥ずかしい。しかも彼女のことをしきりに考えていたなんて。

「へぁ、あ、いや、ちが!」
「そういうことにしておきましょうか。お待たせしました」
「あ、」
「今日も頑張ってください」

 受け取ったカップに書かれていた最寄り駅の名前。すぐに店員さんの顔を見つめれば、ひらひらと手を振って口を開かせてはくれなかった。
 このタイミングで書かれているということは、勉強が得意ではない俺でも何を指しているのかわかった。
 ここは最寄り駅から練習場までの中間地点にある。その最寄駅にはたしかに同じカフェの店舗が店を構えている。いつも混雑している印象があったけれど、明日の練習前にはそっちに寄ってみようかな。 「え!日向さん??」

 翌日驚きに目を丸めた彼女の口から俺の名字が飛び出たことに、俺まで驚いた。ふたりで目を丸めて、口までぽっかり開けて。

「昨日、こっちでヘルプしてるって教えてもらって」
「そうなんですよ~!大忙しです!」

 ふにゃり、と驚きを崩して笑う顔に、胸がぎゅうぎゅうと締め付けられる。好きだな、もっと見ていたいな、という気持ちがどんどん大きくなっていく。

「あの、今度ゆっくりお話したい、デス……」

 緊張で視線をあっちこっち彷徨わせてどうにか絞り出した言葉は少し震えていた。カッコ悪い。

「ふふ。またいつもの店舗でお待ちしていますね」

 大きく顔色を変えずに、にこやかにレシートを手渡す彼女に、がっくりと肩を落とした。自分なりに勇気を振り絞ったつもりだったけど、玉砕。名乗ってもいない俺のことを知ってくれているなら、もしかして、少しくらいはチャンスが巡ってきているのかもしれないと、そう淡い期待をしたのに。
 呼ばれる番号を確認すべく、レシートを確認して身体が硬直して、全身で彼女を振り返る。さっきよりもずっと目を見開いて、彼女を見つめれば、少しだけ恥ずかしそうに視線を背けられてしまった。じりじりとほっぺたの温度が上がるのと同時に、喜びが湧き上がる。いますぐ飛び跳ねて喜びを顕にしたいのを、必死に押し殺す。
 レシートの隅っこに記されたアルファベットの羅列。手書きのそれはきっと彼女の連絡先だ。昨日までは名字の漢字すら知らなかったのに、今日は連絡先を知ることができた。かなりの前進具合に鼻歌がこぼれ落ちた。



しょーよーは恋をしたらぐいぐい行きそうよね