BridgeOfStardust

ラリーを繋げ(一目惚れシリーズ2-3)

 かれこれ三十分ほど眺めているスマホの画面。ワンタップで連絡アプリに新しい連絡先を追加できる状態から動けずにいる。
 この連絡先を手に入れるのだって、俺としてはかなり苦労したわけで。五色から共有されたそれは努力の結晶になっていた。
 誰が撮ったのか、横顔が愛らしい私服姿のアイコン。それを見つめているだけで、みぞおちのあたりがきゅう、と締め付けられて、そこから体中が痺れる。

「よし、」

 ようやく勇気を振り絞って、アイコンをタップする。彼女とのメッセージ画面で、女子ウケしそうなゆるかわいいキャラクターのスタンプと簡単な自己紹介を送る。
 大きな任務を終えて、ほっと身体の力が抜ける。ベッドに転がって白い天井をぼんやりと眺めて思案する。
 一目惚れした白鳥沢学園の女子は、五色の幼馴染で俺達と同い年。かなり勉強が得意で、よく五色の勉強を見ているらしく、それを心底羨ましく思った。部活はクッキング部で、お菓子作りをするという名目で女子会が度々開かれているゆるい文化部。バレーボールは気が向けば五色の応援にくる程度の興味関心レベル。接点が限られすぎていて、連絡先を聞き出したもののこの先どうやって距離を縮めるべきか、悩みは尽きない。
 あのとき火花が散ったあとに思った「めんどくさい」は間違いではなく、懸命に揶揄の的から逃げて、そして今こうして思考を巡らせている。それでも諦められないのだから不思議だ。

「あ、」

 思考を遮るように独特の着信音が鳴る。期待に胸を膨らませてアプリを開けば、裏切られることはなかった。彼女からも簡単な自己紹介が返ってきていた。
 さて、なんて返信をすれば距離を詰めることができるか。画面を前に逡巡。頭の中の引き出しを片っ端から開けては閉めてを繰り返して、盛り上がれそうな話題を探す。

『国見くんは、甘いものすきですか?』
 悩んでいる間に追加で送られてメッセージは、開いたままの画面のせいですぐに既読がついてしまった。

『明日部活があるので、差し入れにマフィンとかどうかな?』
 心が喜びに震える。ベッドの上でジタバタと暴れたい衝動をどうにか堪えて、深く深呼吸をする。だって、こんな知り合って早々に、手作りの差し入れをもらえるなんて、そんな奇跡みたいなことが起きるものなのか。

「すき」

 震える指先で送ったメッセージ。

「でもいいの?」

 正直、嬉しすぎてさっきから口元がニヤけっぱなしな自覚がある。こんな顔誰にも見せられない。だからやっぱりだめ、と言われたらしばらく凹むくせに、図々しいと思われたくなくて慌てて言葉を補う。

『工のついでだし、気にしないで!』
 次に送られてきたメッセージにはギュウ、と強く眉間にシワがよった。ひどい顔をしていると思う。ぐるぐると腹の中で蜷局を巻く、薄暗い感情。さっきまでの有頂天なんてあっという間に飲み込んでいく。

「逆に気にするんだけど……」

 俺だけならいいのに。俺だけにしてよ。そう言えたらどんなにいいか。
 でもまだそれが許される距離感ではなくて。今は五色のついで、その距離感が正しい。

「いまはそれで我慢するか」

 だって、差し入れをもらえたらそれをきっかけにした話題だって作れるし、お礼をする機会だって生まれる。いまは些細なチャンスだって見逃せない。
 感謝の気持を伝えるスタンプと、楽しみにしているというメッセージを送って、枕に顔を埋めた。はやく明日の合宿の時間になればいいのに。



あの省エネメンズが、一生懸命に恋愛していたらかわいい