企画のお披露目日。広場に臨時設営されたステージの前には、目論見通り人集りができていた。
ステージ脇でその様子を窺いながら、何人ものスタッフが行き交ってあと数分後に迫った大事なプロモーション成功に向けて奔走しているのを見守る。
「いよいよですね!」
期待に煌めく瞳ではにかんだミョウジさんは、気合バッチリだった。最初の営業電話からはじまって、初めての対面以降、本当に忙しなく、でも全力でバレーボール協会のPRイベントのために奔走してくれた。真摯かつ堅実に段取りよく仕事を進める姿は、一社会人として尊敬できる。
オンオフの切り替えが明確で、雑談では高校で女子バレーボールをやっていた彼女とは意気投合することも多かった。
「あとは選手に任せますか」
「そうですね」
舞台袖でスタンバイしている、関東のチームに所属する選手数人とMCのタレントを見送った。
滞りもなく、大盛況で終わったイベントは、SNS連動でキャンペーンを打ったこともあり好評で、専用のタグはトレンド入りを果たした。
誰の目から見ても大成功で終わったことに、安心すると共に、ひとつまみの寂しさ。マイナスの感情は少量でも、あっと今に広がっていく。
「黒尾さん、本当に素敵な機会をありがとうございました!」
「こちらこそ。ミョウジさんとお仕事できて良かったです」
撤収作業を見守り、夜も更けた街中。
達成感に満ち溢れた彼女の表情とは裏腹に、俺の笑顔はハリボテ。仕事にプライベートの感情を持ち込むのはプロ失格だと思うけれど、最初のアポイントメントでの笑顔が網膜に焼き付いて消えず、足踏み状態。ましてや依頼者側の男からプライベートに踏み込むのは非常識だろうし。生まれた感情は、今日の功績で埋め立ててしまおう。
「あの、黒尾さんさえ良ければなんですけど、打ち上げとかいかがですか?」
彼女の提案に、もう一回会えると単純な心が踊る。
視線を泳がせる彼女は、飲み会に対して気乗りしないタイプの社会人も増えているから、気後れでもしているのかもしれない。それに少し意外だった。オンオフの切り替えが明確な彼女は、どちらかといえばそういう場を好まないように思い込んでいたから。
「あー、いいですね。みんな予定合わせられるといいですよね」
「えっと……その、できれば、」
言い淀む彼女の頬が赤らんでいるのは気のせいではないかもしれない。点々とした照明しかない薄暗い中でも、勘違いとは言い難い。耳まで真っ赤になっている彼女に、体中の血液が突沸するのはこちらの番。
「ぇ、あ……」
思わず一瞬頭の中が真っ白になる。
懸命に言葉を探して視線があちこちに逃げる彼女にすべてを言わせるのは、さすがにプライドが許さない。
「えっと。うちみんな忙しいんで。俺しか参加できないカモ?」
やんわりと、それとなく。プライドが、とか言いながらもたっぷりと保険をかけて様子を探ってしまうのは、社会人の性だと思う。
首の後ろを擦りながら、俺の視線も定まらない。彼女の反応を合図を見逃したくないのに、直視するのは少し怖い。
「同じくです」
ほんのりと震えた声。それでもかすかに喜色に弾んで聞こえるのは、あまりに都合がよすぎるだろうか。
「じゃあ、スケジュール連絡します」
「はい。お待ちしてます」
そう言いながらも、すでに頭の中でスケジュールの調整が始まっていた。