ざわめきに満ちた昼休みの廊下。体育館での自主練から教室への帰り道、見慣れた背中をみつけた。
まだ俺には気づいていないとなると、ひょっこりと顔を覗かせた悪戯心。それに素直に従って、肩を組みに飛びかかる。
「いーーわちゃん! 何やってんの~」
「うぜぇ。クソ川あっち行け」
即座に足蹴にする岩ちゃんに、痛い、酷い、と喚く。そこでようやく岩ちゃんの影に隠れていた女の子に気がついた。ただ、廊下で立ち止まっていたのではなく、彼女と話をしていたらしい。
「え、あ、及川くん……」
俺と目が合うなり、顔を真っ赤に熟れさせた女の子の視線が泳ぐ。そして、泳いだ先は岩ちゃんで。縋るように眉尻を下げて岩ちゃんをみつめる。
頬を染める女の子は見慣れているはずだった。たくさんの女の子に囲まれることもしばしば。
それなのに、たったひとりの女の子が、頬を染め上げただけで鼓動が早くなる。呼吸が詰まって、身体の芯に熱が燻るような、妙な感覚。何より、迷子のような視線が俺よりも岩ちゃんに向けられていることが、すごくすごく不服だった。
俺を見てよ。
「えーっと……お邪魔しちゃった感じ?」
「ち、違うの! あ、えっと、お邪魔しました!」
「おい!」
脱兎の如く。パタパタと逃げていく背中を追いかけそうになる腕をぐっと堪える。どうして、まさか、そんな。この俺が……?
「ったく……」
女の子の逃げ足にため息を零した岩ちゃんに、今度は俺が縋る番だった。
「ねえ、岩ちゃん……どうしよう……」
「なにがだよ」
どうしようか。及川さん、あの子に、恋、しちゃったかもしんない……