三年生が二年生のフロアを歩くと、たっぷりの好奇とちょっぴりの畏怖が向けられる。それが強豪運動部ともなれば、畏怖の割合は増えるらしい。部員からの挨拶が飛び交うのを、軽く返しながらお目当てのクラスを覗き込む。
教室の中をぐるりと見渡してみたけれど、目的の人物は見当たらさない。
「ごめんな。赤葦どこか知ってる?」
教室の廊下側の席の最前列。そこで一冊の文庫本を読みふけっていた女の子に仕方なく声をかけた。たしか今の赤葦の席は斜め後ろだったはずだから。
「赤葦くんですか?」
「ぁ、え、うん、」
ゆっくりとした動作で、本への名残惜しさを少し滲ませながら顔をあげたその子。元々の身長差もある上に、立っている俺と座っている女の子では、必然的に上目遣いで見上げる形になる。視線が絡まりあった、その瞬間に足元が崩れる。浮遊感に酷似した心もとなさ。
ほんのり懐かしく感じる種類の胸の高鳴りに、まさか、と否定の言葉が頭を過る。呼吸が詰まり、肺が切なく痺れる。指先までじんわりと痺れが広がっていき、手が汗ばむ。
「あれ、さっきまでいたのに」
背筋を伸ばして教室を見渡す姿がぴょこぴょこと頭の高さを変える。
それがどうしようもないほど可愛いと思う反面、俺が頼んだにも関わらず視線を奪われた喪失感が滲む。だめだ、これは完全に恋だ。りと
「木葉さん、どうしたんですか?」
「あ、おかえり」
廊下側から赤葦から声がかかり、赤葦の姿を捉えたその子は表情をゆるめて出迎える。素直に、いいな、と思ってしまった。そんな笑顔で出迎えられたいし、なにより無防備な表情を許される近さが心底羨ましい。
「あーっと……」
本来赤葦を訪れた目的が、女の子の存在によって上塗りされてしまい、首の後ろを撫でる。こんなこと口が裂けても言えない。必死に理由を記憶の瓦礫から掘り返す。