天井高く上がったバレーボール。落下速度を見誤らないように視線で追いながら助走をつけて、足裏に力を蓄え膝のバネを活かして踏み切る。ぐん、と地上に縛り付けようとする重力に逆らいながら、宙へ跳び上がる。肩関節と腕をしならせてボールを撃ち抜けば、五色が滑り込んで床ギリギリのところに手を差し込んだ。
ああ、むかつく。はやく落ちろ。そう頭の中で呪詛を吐く。
二対二で長いラリーが続くのはしんどい。リズムを調整したところで、どうやっても自然と早くなるリズム。お互いに早く一点切りたいんだから。
乱れた呼吸を正しながら、自陣内で上がったボールの下へ移動して両手をあげる。百沢が助走するのを横目に確認して、高めの位置へとセットする。高い打点から叩き落とされたスパイクによって、ゲームセット。盛大に息を吐き出した。
「つとむー」
「あ、悪い。助かった」
五色が体育館の入口へと走っていくのを、しゃがみ込みながら視線で追いかける。その向こうで一冊のノートを掲げた白鳥沢の制服を着た女子生徒がいた。その瞬間目の奥で火花が散った気がした。
「すき、かも」
あっという間に体育館の喧騒に溶けて消える程度のつぶやき。ボールと違って誰に拾われるわけでもなく、落下していた。
一切の情報がないのに、直感が好きだと告げた。面倒くさいとも思う。だってあの子と繋がるためにどれだけ根回しをしなくてはいけないか。それでも視線は接着剤でくっつけたいみたいに一ミリたりとも動かせないし、それどころか瞬きすら惜しいと思っている。
とりあえずこの後戻って来る五色をじっくり詰問しよう。