まずい、そう思った時には心臓が跳ね上がって心拍数をあげていた。いつもより早いペースで脈打ち続ける心臓。きゅうと気道が締まるようなあまい息苦しさ。
はっ、と吐き出した息は予想を遥かに超えた熱を孕んでいた。
「黒尾さん、暑い中ご足労頂きありがとうございます」
営業スマイルにしては、やわらかい印象の笑顔を浮かべたミョウジさん。メールでのやりとりでは、もっとビジネスライクな淡々としたバリキャリな印象を持っていた。
「あ、いえ、とんでもないです。直接ご挨拶したいと思っていたので」
「会議室にご案内しますね」
お硬すぎない、それでいて清潔感のあるオフィスカジュアルな装い。やわからなドレープを描くスカートの裾をゆらめかして、前を進む彼女の背を慌てて追いかける。ハイヒールを履いて、スッと伸びた背筋。けれど俺よりもずっと低い位置にある頭。
どうしよう。すべてが可愛く見える。こんなはずではなかったし、まさか取引先の女性に一目惚れなんて。そんなことがあってたまるか。
「この企画を担当できてとても光栄に思っています」
振り返りざまに微笑んだ表情が眩しいくらい輝いて見えた。ぐう、と喉が鳴るのを飲み込んでどうにか言葉を絞り出す。
「それは良かったデス」
さて、どうしたものか。