休日の朝ということもあり、すっかり寝坊助さんの彼女をベッドに残してキッチンに立つ。換気扇をつけて、手を洗って、眠りについている彼女を起こさないようにできるだけ最小の音で。
食パンを三枚まな板に並べて、それぞれを四等分に切る。ポリ袋を三枚取り出して、それぞれに卵をひとつずつ、牛乳を少し、それからたっぷりのはちみつを入れて混ぜ合わせる。卵液ができたところに袋ごとに食パンを一枚分ずつポリ袋へ入れて、口を縛って寝かせる。フライパンを熱して、温まってきたところにベーコンを並べた。ジュワッと水分が蒸発する音、パチパチと脂が弾ける音が、朝のしっとりとした空気の中で騒々しく響く。燻製肉の焼ける匂いが鼻腔をくすぐれば、自然と身体は空腹を訴える。
北欧に本社を据える大型のインテリア雑貨店で、でっかいカートを押してふたりで買い物をしに行ったときに買ったシンプルな平皿を二枚、ワークトップに並べる。フリルレタスを洗って千切って、それからミニトマトを添える。焼き上がったベーコンも並べていけば次第にそれらしい雰囲気が出てくると、小さな達成感がぷかぷかと浮かび上がってくる。
ケトルに水を張ってスイッチを押したら、フライパンをキッチンペーパーでキレイに拭う。そこにバターを少し多いかと思うくらいに入れたら、寝かせておいた食パンを並べていく。こんがりとバターが焦げる匂いと、はちみつのやわらかい甘さが空気に漂って、朝の匂いを上書きしていく。
「りんたろ、」
匂いに誘われてのそのそと寝室から顔を出した彼女は、まだ覚醒しきっていない様子でほとんど目が開いていない。しょぼしょぼと朝日に目を細めながら小さな瞬きを繰り返す仕草があいらしい。
「おはよ。もうすぐできるから座ってて」
「んー」
間延びした返事に思わず口元がゆるむ。
その間に焦げ目のついたフレンチトーストをひっくり返して反対の面にも食欲を誘う焦げ目をつけていく。ゴポゴポと慌ただしく騒いでいたケトルがスイッチが戻る音をきっかけに黙りこくる。テーマパークで買ったお揃いのマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れてお湯を注ぐ。湯量が増していくに比例して、頭の覚醒を促す香ばしい匂いが部屋中を包む。
マグカップと蜂蜜の瓶を持ってリビングへと向かえばソファーで蹲っている彼女に、口元がゆるむどころか丸い笑い声がこぼれ出る。
「もう少し寝てる?」
「起きる」
気怠そうな動きで起き上がった彼女が、これまた緩慢な動きでソファーに座り直しているのを横目に、キッチンへと戻る。
フレンチトーストを彼女の皿に食パン一枚分、俺の皿に食パン二枚分を乗せる。サラダにごく少量の塩をふりかけ、オリーブオイルを垂らす。ナイフとフォークと一緒に皿をローテーブルに並べた。
「わたし作りたかったのに」
「でも俺も作りたかったから。また今度でいいじゃん」
唇をすこし尖らせた彼女が昨晩張り切っていたのは知っているけれど、早起きができなくしたのは俺なわけで。それにこれは口にはしないけれど、彼女の身体が、俺の手料理で構成されていくのは気分がいい。
「ほら、いただきます」
「いただきまーす」