BridgeOfStardust

細い繋がりを紡ごう

不意に長くもない人生を振り返ったときに、必ず通過する思い出があると思う。
 俺にとってそれは、高校三年間。必ず隣には御幸がいた。時に腐れ縁、時にチームメイト、時に主将・副主将、時に悪友、時にライバル。様々な関係を内包した俺達の複雑な距離感はその時々にあわせて縮んだり遠退いたりを繰り返してきた。
 周りを顧みない御幸の姿は危なっかしくもあり、羨ましくもあった。ただ野球だけのことを考える姿は、余分なことを考えて足を引っ張られそうになる俺にとってはひどく眩しいものだ。
 夢を目指すまばゆい光でもあり、俺の未熟さを突きつける影でもあった。

「どうしてこうなったんだろうな」
「え? なに急に」
「いや?」

 目をまあるくした御幸は少し挙動不審な身振りをしながら、俺を振り返る。
 強いて言えば、隣りにいることが当たり前になりすぎたから。ってところだろうか。
 高校卒業後、御幸はプロ球団入りをした。俺は大学に通いながら野球を続けて、社会人リーグへと進んだ。進路が離れたことにより、俺達の間の距離はゆるやかに離れていこうとしていた。
 それを受け入れ難かったのは俺だけではなかった。連絡不精である御幸が率先して連絡してきていたのはそういうことだろう。お互いが離れていかないための努力を自然と行っていた。細い糸を手繰り寄せて、丁寧に紡ぐ行為は、友情に収めるには無理がある。

「なあ、好きだ」

 酔った勢いで飛び出た言葉は、深層心理から呼び起こされたものなんだと思う。今みたいに挙動不審になりながら目を丸めた御幸は、馬鹿みたいに動揺していた。声量のコントロールを失って叫ぶみたいな声で「お、俺も!」に、びっくりして飛び上がったのは懐かしい。
 ふたりして驚いて顔を見合わせた後は大笑いしたっけ。

「まあ、悪くねえから別にいいんだけどな」

 ソファーの上で懐かしい記憶を辿っていた。胡座の上で頬杖をついて向けた視線の先で御幸は恒例のストレッチをしていた。それをぼーっと眺める時間に平穏を感じる。

「ほんと、素直じゃねえなあ」

 うっそりと涙袋を持ち上げてニヒルに笑った御幸に、条件反射で眉間にシワが寄る。

「俺と一緒にいられて嬉しいくせに♡」

 経験則通りくだらないことを言い出した御幸に、軽く舌打ちをこぼす。

「まじできめェからやめとけ、それ」

 吐き捨てるように言ったけれど、一番キモいのは、そんな御幸のことをかわいいと思ってしまう俺自身だ。肩を竦めて不貞腐れてみせた御幸を横目に、どこまでこの腐れ縁が深まっていくのか思案することにした。



きみくら2025の記念お題企画「きみはひかり」より。広告ショックで爆散して以降まともに恋愛してる描写が書けなくなりました