湿度を含んだ赤土の匂いと、汗を吸った革の匂い。それが俺にとっての夏の匂いであり、青春と呼べる高校時代の記憶が鮮明に蘇る匂い。
三年間、正しく言えば二年半という人生においてはクソ短い時間は、永遠のように感じた反面、日々刹那のように過ぎ去っていったのを覚えている。あのときは、持てるものすべてを注ぎ込んで、この先のすべてを賭けて高校野球というものに取り組んで、人生の中でも一番必死に生きていた。
「懐かしいな……」
あのときとはかけ離れたクーラーのよく効いた涼しいリビング。座り心地にこだわって買ったソファーは、お気に入りのスポットが最近すこしヘタれてきたように思う。
けれど、そのお気に入りのポジションに座ってテレビ中継で甲子園の様子をぼんやりと眺める。
「あのときさ、沢村が暴投しかけたときはちょっと肝が冷えたわ」
「ヒャハハ! そんなこともあったな」
隣に座って食い入るように中継をみつめていた御幸は、あの日々に比べて細かいシワが増えた。ずっと日焼けする生活をしていたせいでできた小さなシミも。それでも整った顔立ちは変わらないままなので、歳を追うごとにまた別の男らしさがにじみ出ているのが羨ましい。こっちとらまだ十以上若く間違われるというのに。
短い青春の日々から地続きで、今に繋がっている。あのときとは全く異なる生活をしているけれど、これはこれでまた幸福だと、こっそり笑った。